14、酔っ払いのカントリーミュージック

日本的な酒の飲み方には問題があるが、アメリカのそれは半端でない。
シーンが違う。
日本は飲み会文化があり仲間で飲む。特に職場では何かと理由を付けて集まり飲んだ。
大声で上司の悪口を言い、噂を語り、悪酔いして、絡んだ。2次会はカラオケ。
つまり仲間的共通項がある、しかしこの行動が日本にコロナを拡散させた。
アメリカは職場で飲む機会は少ないがパーティ文化がある。そして一人でバーで、家で飲む習慣があり、個人の問題はより深刻になる。
カントリーミュージック、僕の思い込みでは、ホンキートンク、サルーンから始まったので、酒ととても近い。バーカウンターの横で音楽を演奏していたのだから。
でもカントリーミュージックの道徳的基盤はキリスト教であり、キリスト教は飲酒に否定的だ。ここが悩ましい。
カントリーミュージックでは酒を飲む、酔う、失敗するは定番だ。それらを唄ったのが、
DRINKING MUSIC とか、BAR MUSIC と言うアルコール臭いサウンドだ。

最近の歌では、ブルックスアンドダーンにいたジョン・パーディJon Pardiがバーに行き酒を飲み、そしていい女に出会うと言う歌 Heartache Medication 2019がある。
Pardiはイケメンだし、ダンスのシーンが良い。1985年、ウエストコースト生。
この歌のように今のカントリーは酒を明るく歌う。微笑ましい。

1977年夏、会社の上司、ヤマグチハクゾウさんが南部を視察したいと来て、4日間ほどルイジアナ、アラバマ、ジョージアを案内した。ニューオルリンズからレンタカーでアトランタまで走ったのだ。ハクゾウさんは酒好きでそのため早く亡くなったが、良い人だった。
その道すがらハクゾウさんが、「おい、ビールが飲みたいな」と言うので、店に寄った。

こんな店

「日曜だ、酒は売らないよ」と言われ、彼はあぜんとした。その晩、泊まった古いコロニアル屋敷、かび臭いホテルで夜中に彼が「幽霊が出る」と言って来た。もう月曜日になっていたので、ビールを取り寄せて飲ませた。

こんなホテル

ハクゾウさんの部屋の2Fの窓から下の中庭で深夜、カップルがキャンドルライトの元で食事していた姿を僕も確かに見たのだが、翌朝、チェックアウトする際に見たら、中庭は使われていなくて草ぼうぼうだった。
話は外れたがこのドライブ中もラジオはどの州でも朝から晩まで、カントリーミュージックを流していた。南部では日曜は酒類販売をしていないか「ドライカウンティ」Dry County,と言いまったく酒類の売ってない郡がある。NY州も日曜午前中は販売してない。友人、ブレビンズの家はドライカウンティにあった。

当時、流行っていたのはマール・ハガードMerle Haggardの2曲の酔っ払いソング、
ともに彼の作、The Bottle Let Me Down Swinging Doorsだ。
両方とも、女に振られた男が毎晩バーに行ってぶっ倒れるまで飲むと言う曲だが、前奏から
千鳥足のリズムで彼の真骨頂だ。マールは飲み過ぎて死んだそうだ。
彼の時代の酒は今の酒の雰囲気とは少し違うように思う。

ちなみに「素面」つまり酒を飲んでない状態を、ソバーSoberと言う、運転免許や銃砲所持の条件の文によく出てくる。弁護士から警官に質問されても「I am sober.」と自分で言わない方が良いとの忠告もあった。

アメリカでは1920-1933年の間、憲法修正に基づく「禁酒法」The Prohibition Lawが制定され、酔いをもたらす飲料を定義、それらの製造、販売、輸送が禁止された。(個人的に飲むことは禁止されていなかつたが)今考えると大変な法律だ。アメリカの乱暴さがうかがわれる。カントリーミュージックは、酒を飲むホンキートンク、サルーン、クラブで演奏されていたからそういうところでの音楽に影響を与えてに違いない。音楽的にはホンキートンクは下火になりジャズが盛んになったのではないか。  

酒を処分

禁酒法の背景は、キリスト教、メソジスト、バプテストの影響が大きく、南部はもろに
禁酒法を支持した。だから現在もその傾向が残っている。
結局、ギャングによる組織的な密売、売春、賭博そして暴力で、社会の不安要素は増えた。州政府は税収が減少し、連邦政府は取り締まりに費用が掛かった。
フランクリン・ルーズベルト大統領がこの法律をやめ、元に戻った。

男は女より飲酒の影響は大きい。男の方が飲む。そしてだらしない
バーで喧嘩する、飲酒運転する、銃をだす、警察沙汰になる、仕事に行かない、
職を失う、家庭内暴力に発展するまで時間はかからない。
飲むのはビール、ウィスキー、バーボンそしてテキーラが多い。
ビールは当然、12パックを大体一回で全部飲む。瓶ものは一晩で1本。

かくして飲酒トラブルの歌は沢山ある。カントリーソングでは定番だ。
シンガーでも飲酒問題が大きかった人達は多い。
ジョージ・ジョーンズ、ジョニー・キャシュ、ハンク・ウイリアムス、コンウエィ・ツィテイ、マール・ハガード枚挙にいとわない。

問題飲酒者Alcoholics、小説のキャラにも頻繁に出るが、ローレンス・ブルックスLawrence Brooksの「酔いどれ探偵」、マット・スカダーMatt Scudderは「AA」と言う会で定期的に他の断酒者と語り合い、解決を図る。

ミレニアムシンガーでルーク・コンムLuke Combが良い。1980年シャーロット生まれの大きな男だ。フットボールをやっていたらしい。明るく凄く良い。「ビールはけして俺の心を壊さなかった」Beer Never Broke My Heart これも微笑ましい歌だ。
この歌以外にも、「雨が降れば土砂降りさ」When It Rains It Poursも良い。女と別れたあとツキが巡って来ると言う歌だ。

他にも
Tennessee Whisky    Chris Stapton
Why We Drink    Justin Moore
Drinking Problem   Midland
Whisky River        Willie Nelson
Yesterday’s Wine     Emmylou Harris
多くあり過ぎる。

ルークと同じノースカロナイナ州出の大先輩、ジョージ・ジョーンズGorge JonesのホワイトライトニングWhite Lightningも良い曲だ。
ホワイトライトニングとは南部の山の中でありあわせの材料で作る密造酒だ。アルコール度が高く、稲妻のようで危険な飲み物だからだ。コミカルな曲だ。

 DNA的に概して白人はアルコール分解酵素が多く酒に強いと言われている。
アジア人はまあまあだ。意外だが、黒人は酒に弱いとされている。
今はどうか知らないが海軍の艦艇勤務は一切禁酒であったが。
酒は人間には不可欠だと、勝手ながら僕は思う。
しかしコロナのためにしばらくは、もしくは永久に以前のような飲み方は日本でもアメリカでも出来ないのではないか?
そう思うと世の中暗くなり、また酒が飲みたくなる。
この項以上