11.トラック野郎のカントリーミュージック

アメリカにおけるトラック輸送は1920年代後半から鉄道をしのぐようになった。
NYで会社をやっていた頃、オフィスは1920年代よりのナビスコビスケット工場だった。
オフィスに上がるところに鉄道のホームがあり、建物には高架線路が続いていた。1930年代初頭から線路は使われて無かったと言う。建物の南側にはトラックデッキが続き、鉄道はトラック輸送に替わられた。建物の中に貨物列車が入ってきていたとはロマンを感じた。
現在、トラックもNYシティの近くでは走れるところと走れないところが厳重に管理されているので万能ではない。しかし郊外に出るとトラック天国だ。道路はトラックのために作られたようだし、大きなトラック野郎相手のスタンドやダイナーも至るところにある。
1976年夏にアメリカ大陸横断ドライブした。道路はカルフォルニアを出て、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス、ミズリー、テネシーとずっとトラックと一緒だった。
LAを出るときヘンリーさんがトラックドライバーは性質が悪いから気をつけろ、と忠告してくれたが、二世の彼の経験だったのだろう。

カントリーミュージックでは鉄道と同じく、トラックはひとつの大きなテーマだ。
トラックは歌にし易い、運転しながら聴いているトラックドライバーは音楽のマーケットだ。無線で絶えず情報を交換し、ダイナーではジュークボックスに直行する、そういう奴らだ。
シンガーでも、バック・オーエンス、マーティ・ロビンスは世に出るまでの職としてトラックを運転していた。多くの有名歌手がトラックソングを歌っている。

大体、男性歌手はトラックを一曲は唄っている。
声は高くないほうが良い。バリトン系の人が多いが。

長距離トラックドライバーは男らしい、忍耐のいる、力強い仕事だが、孤独だ。
特に女性は身近にいない。未知の大地、情熱とロマン、そういう感じが歌になっている。
サウンドのジャンルではロードソング(Road Songs)と言われる

トラックソング専門はなんといってもレッド・シンプソン(Red Simpson)だ。
彼は多くの歌を書いた、そして唄った。本当のトラックドライバーだと誤解されていたが、
トラック運転の経験はなかった。声はバリトンだ。

レッド・シンプソン

レッドはアリゾナからベーカーズフィル―ドに来た。1934生-2016年没、朝鮮戦争に水兵として従軍、船の上でも音楽をやっていた。GIビルでベーカ-フィールド大学で楽譜を専攻し、それから多くの曲を書いた。

代表曲はTruck Drivin’ Man, バック・オーエンス、マール・ハガード、コンウエイ・ツィティ、ウィリー・ネルソン
歌の内容はトラック野郎が行きつけのテキサスの店に行くと言うたわいのないものだが、ハンバーガー、ジュークボックス、コーヒー、ウエイトレスと続く。

この歌もトラック野郎の心理を唄った。ひとつの曲にママと彼女が両方出てくる。
運転していると寂しいのだろう。自分の経験でもアメリカの大地は広すぎた。
僕が乗用車を運転して一日5時間か500マイルが限度、彼らはその倍くらい走る。

レッドのトラック野郎の衣装

彼の曲は、
Truck Driving Fool
Truck Driving Blues
Runway Truck
Highway Man
Truck Drivers Heaven
Born To Be Truck Driver
I’m A Truck 1971
Hold On Ma’m
Disel Smoke Dangerous Curves
など30曲近くある。

他の歌手の歌では。
Alabama   Roll On
Kathy Mattea  Eighteen Wheels And A Dozen Roses
Dan Seals    Big Wheels In The Moonlight
Jason Aldear   Asphalt Cowboy
Eddie Rabbit  Driving My Life Away
Jonny Cash    I’ve Been Easy Where
        All I Do Is Drive
Sailor On A Concrete Sea
Tony Justice   Brothers OF The Highway
Willie Nelson Truck Stop
Bobby Bare The Worlds Last Truck Driving Man
Jaser Aldean Asphalt Cowboy
Eddie Dablert Driving My Life Away

女性の歌手は少ない。Kathy Mattea がFurther and Further Away などを唄っていた。


もう一人はディビッド・ダッドレィ(David Dudley)、1928年生―2003年没、だ。’60-’70年代に活躍した。
代表曲はSix Days On The Roadでシングルは数十、アルバムも25枚出している。声はバス。Truck Drivin’ Son Of A Gun と言う歌もある。

デビッド・ダットレイ

彼はトラックドライバーソングズの世界では有名だ。
Speed Traps, Weight Stations
The Last Run
A Few More Miles
など沢山ある。

トラック野郎の敵はステーブン・スピルバーグだ。スピルバーグはトラック野郎をコケにした悪いキャラだ。「激突(Duel)」と言う映画を1971年、製作し、トラック野郎をとことんやっつけたからだ。

蛇好きのスピルバーグ
スピルバーグがルート81を走っていたら、トラックに煽られると言う映画を作れる。

1993年、NYで菅原 文太夫妻を夕食した。ケイスケ先輩が映画の仕事をしていた関係だ。夫人はサハリンのことを話、文太さんはトラック野郎を、「アメリカは広いから良いなー」と言っていた。アメリカのトラックは大きい。18輪容積は日本のトラックの3倍くらいはある。
日本のトラック野郎の好きな音楽は矢沢 永吉。なるほど日本ではエイちゃんの音楽はトラックには洒落すぎているが・・・

最後にWide Open Country と言うサイトに10 Best Country Truck Drivin Songs All The Time by Edward Mack と言う記事があり、以下の曲が挙げられていた。P
Girl On The Billboard   Del Reeves
Phantom 309  Red Sovine
Truck Driving Man  Terry Fell
While Line Fever   Merle Haggard
Me And Bobby  Roger Miller
30000 Pounds Of Bananas  Harry Chapin
Hammer Going Down  Chris Knight
Roll In Alabama 1984
Six Days Of The Road   David Dudly 1963
East Bound and Down Jerry Reed 1977

ワーキングクラスの代表、トラック野郎の歌はかくてカントリーミュージックの大きな潮流であることは間違いない。(この項以上)