ハンク・ウィリアムスHank Williams1933―1953年、29年間の生涯はドラマチックだった。
しかも彼の人生の主題は音楽だ。
これは映画化し易いはずだが、とても難しい製作はなかったのではないかと、この2本の映画を観ての感想だ。
アイ・ソウ・ザ・ライト「I SAW THE LIGHT 」2015年と
ユア・チェーティング・ハート「YOUR CHEATING HEART」1964年だ。
「I SAW THE LIGHT」2015年は、
監督マーク・エイブラハムMark Abraham、この人は南部人だ。
ハンクをトム・ヒドルストーンTom Hiddleston1981生、が最初の妻、オードリ―をエリザベス・オルセンElizabeth Olsenが演じた。
題名は晩年のハンク作のゴスペル曲から来ている。主演の、ハンク役、
ヒドルストーンは英国のかなり有名な役者で、ケンブリッジ大学演劇で学んだ本格俳優だ。「マーブル・アセンブルシリーズ」で北欧の神、ロキ役をしていたので覚えている。
原作は「ハンク・ウィリアムス伝記」コリン・エスコット、他作、にかなり忠実だそうだ。本は読んでない。
ハンクと母親、オードリーAudrey、第二の女性ビリー・ジーンBilly Jean Horton、第三のボビーBobbieなど、女性関係に重きを置いた展開だ。
物語はハンクと契約していた版権会社、フレッド・ローズFred Roseの話から始まる。
Roseは自らも「ブルー・アイズ・クライング・イン・ザ・レイン」
「Blue Eyes Crying in the Rain」などの曲があり、ハンクの才能を発掘してマネージ、そして彼の奔放Hard Livesに悩まされ、
更にハンク死後、彼はオードリーとの版権裁判で負けた。
ハンクは「カントリーミュージックは誠実だ」Country Music Is Sincere.と映画の中で言った。
この映画の良いところも欠点もトム・ヒドルストーンだ。
彼の演技は上手い、歌も水準以上なのだ。
しかしハンクの人生、20歳から29歳の10年間でみると、製作当時35歳であったハンクの青臭い感じは出てない。
会ったことのない人間を語るのは難しいが、ハンクはヒョロヒョロで少年のような感じのまま死んだのではないか?歌を作る、唄うは
成熟していたが、人間としては未熟だったのではないか?
彼の作った歌の感じは多くが、オードリーAudreyとの関係をイメージして唄ったと思われる。オードリーはハンクより人生ではかなり上手(うわて)であったころは確かだ。
例えば、
Cold Cold Heart
Your Cheating Heart
Take These Chains Form My Heart
I Can’t Help It
などの曲だ。この映画でオードリーAudreyのハンクの人生における位置がよく理解できた
この手の映画の鍵は誰が歌を唄うかだ。
主演の役者が唄うか?オリジナルを使うか?混ぜるか?
映画の質は俳優が唄う方がはるかに高く評価されると言われている。
トロント映画祭でこの作品は「楽曲の深み、理解が不足」と評された。
ハンクの歌は唄うに優しいと聞こえるがそうではない。とても節回しが難しいし、しかもハンクの感情は彼本人でないと出せない。
もうひとつこの映画の重要な要素は1950年を挟んだ時代、アメリカ南部社会の描写だ。今とは違う一番の違いは人間の扱いだ。白人と黒人は住み分れていた。混在は少なかった。この点は良かった。時代の背景、街や村、家、その内部、玄関、家具、衣装、車、食べ物、飲み物、アメリカはとても50年代初頭、ユニークだった。この映画はこれらの描写は素晴らしかった。
どのようにイベントを再現するか?この映画はこれをコンサート、興行会社、録音スタジオなど、働く人達、聴衆を含め、とても上手に表現していた。そして、言葉、南部なまりは真似するに容易くはない。
夜のシーンで、沼に張り出した桟橋で語るシーンは感じが出た。
だがヒドルトンは20代で死ぬ、才能ある男のその真逆な行いをどう演じるか、最後まで悩んだだろう。
Hiddlestonは現在、注目を浴びている役者でこれからの彼の活躍も期待すると、この映画は彼にとっても大変なエポックだっただろう。
ハンクは映画のなかで「歌はみんなの心の叫びだ」と言った。
この映画はハンクの言葉を良く伝えたのではないか。
僕はこの作品はDVDを持っていて、何度も観た。
「ユア・チーテイング・ハート」偽りの心、は1996年
監督ジーン・ネルソンGene Nelson 白黒作品1時間40分
この作品はアメリカにいたころ、テレビの深夜番組で見た。
記憶に定かでない部分もある。
主演はジョージ・ハミルトンGeorge Hamiltonだ。彼は本格的な歌手ではないが、映画のなかの歌曲は唄っていた。Fred RoseはArthur O’Connelが、そしてオードリーをスーザン・オリバーSusan Oliverが演じた。
George Hamiltonの見かけと歌は似ているが、前髪が良くない。
ホンモノのハンクが帽子から前髪を出していたのは見たことはないが、彼のハンクはほとんどのシーン、前髪を垂らしていた。そして普段からやけに明るくにやけていた。地下のジャズバーで唄うあり得ないシーンも良くない。
ハミルトンは映画製作の時、25歳、年齢的には問題なく、メンフィスの生まれで南部なまりも自然だった。
この2作品を比べると2015年の「I saw the Light」の方がはるかに良い作品だった。
ちなみにハンク・ウィリアムスはこの2作品だけでなく、
「Hank Williams The Show He Never Gave」1980年
カナダ製作 監督David Acom
1952年12月31日小さな村の小さなバーでハンクが自分の人生を語り唄うというストリーらしい。
ハンク Snnezy Walter
[Hank Williams Lost Highway]1990
David Acombeと言う人が23曲唄った。「Lost Highway」 はテキサスも盲目の作曲家、レオン・ペインLeon Payne1917年生、の歌で、ハンクが初期に唄い、ハンクの作曲はこの歌の影響を受けている。それを題名にしてミュージカル調にRiverside Theaterが製作した作品だ。
それに独立系の製作で
「The Last Ride」2012
ハンクが1953年正月、ウエストバージニアへカールトン、オハイオ州から、学生バイトのドライバーと二人が車で移動する話を映画化したものがある。Henry Thomasがハンクを演じた。これはハンク最後の3日間のミステリーがストーリーだが勿論事実ではない。車が
冬のアパラチアを走るシーンが良い。
なかでジョニー・キャシュが「ハンク・ウィリアムスが町に来る」と言う歌を唄っていた。
それで思い出したが、ジョニー・キャシュJohnny Cashは「刑事コロンボ」Colombo第24話、1973年、「スワンソング」と言う作品のなかで、犯人のカントリーゴスペル歌手を演じた。この作品の重要なテーマが「I saw the Light」であった。この歌を、
ステージでもスタジオでも唄った。もう一つの曲がクリス・クリストファーソンKris Krisofferson1936年生、の「サンデーモーニングサイドウオーク」Sunday Morning Sidewalkだ。
パイロットと言うキャラをクリスから取ったのだ。
ハンク・ウィリアムスはあまりにも偉大でしかも脆かった存在なので、これからも彼の言うこころの叫びを主題として作品は出てくるだろう。
(この項以上)